昨年2018年、話題になった「アドフラウド」について、改めてご紹介いたします。

アドフラウドとは

アドフラウドは直訳すると「広告詐欺」を意味し、人ではなく自動化されたプログラムに広告を閲覧、クリックさせることで広告費を不正に水増しすることをさします。

私たちがインターネット上で見かける広告画像の多くは、クリックされた回数、または閲覧された回数により、回数に比例した広告費が発生します。この仕組みを悪用し、広告費用を騙し取る手法をアドフラウドと呼びます。

例えば、ある広告が1日に10,000回クリックされていたとレポートが提示されていても、そのクリックはすべて人によって行われたかどうかは分からず、10,000回のクリックのうち、9,999回は自動化されたプログラムによるクリックかもしれません。仮にそうであった場合、その分の広告費は契約で取り決められた本来の目的に使われていない費用となります。

通販サイトの広告であった場合、たとえ購入に至らなかったとしても、人がその広告を閲覧しているのであれば、興味喚起やイメージ向上等の何らかの効果を持つ可能性はゼロではありません。ところが、自動化されたプログラムに広告を閲覧された場合、その広告効果はゼロとなってしまい、投資した広告費は無駄なお金となります。

広告の価値を毀損する、残り2つの課題

1.「ビューアビリティ」(Viewability)

「広告が実際に閲覧可能な状態で表示されているか」を比率化した数値を「ビューアビリティ」と呼びます。

ホームページ上の広告枠は、そのページを開いた瞬間に見える領域だけではなく、 画面を下部までスクロールしないと閲覧できないような掲載枠も多くあります。すべての閲覧者が最下部までスクロールするわけではなく、下部の広告枠が画面に出現する前にそのページを離脱してしまうケースもあります。

このとき、下部領域の広告は実際の画面上に出現していませんが、広告画像はページが読み込まれた時点で読み込まれ、“掲載”と判定されています。そのため広告主は「画面に全く表示されていない広告」 にも費用を支払っていることになります。

このような問題を解消するため、掲載されたとする判定基準を
「広告の50%以上が1秒間以上(動画の場合は2秒以上)表示された場合」とIABが定めています。

*IAB(Interactive Advertising Bureau)
 オンライン広告における技術的標準規格の策定を始め、動向調査や法整備などを行う非営利団体

2.「ブランドセーフティ」(Brand safety)

「広告が社会的に適切なサイト上に表示されていること」を「ブランドセーフティ」と呼びます。

2017年3月には、世界6位の広告代理店ハバス(本社フランス)が、年間1億7500万ポンド(約240億円)に及ぶYouTube広告の出稿を停止したと報じられました。同社が広告主として出稿している広告が、テロリストなどの反社会的コンテンツとともに掲載されていることを、同社が調査によって確認したため、と言われています。

アドフラウドが日本で話題にならなかった背景

「アドフラウド」日本と海外の比較/Google トレンド
https://bit.ly/2Wp3lLu

米国やイギリス、カナダなどの欧州諸国では、アドフラウド問題は数年前から叫ばれ議論されてきました。特にここ数年、Web広告市場が増加している傾向から、Web広告の質が重要視されはじめてきました。
市場の拡大に伴って広告詐欺の被害は増大しています。アメリカ、欧州諸国ではすでにアドフラウド対策が注目され、より効果の高い広告を提供するための環境整備がはじまっています。

アドフラウド問題に関する海外と日本の温度差は「広告に対する指標が異なる」という事情が影響していると言われています。

米国では表示回数が広告効果として直接的な指標とされています。
これは米国の広告では、企業のブランドイメージを損なわず、適切に情報を伝えることが広告の最優先事項とされているためです。そのため、成果や成果に要した費用といった中間的指標はあまり重視されない傾向があります。

これに対し、日本では成果や成果に要した費用が広告効果の指標になります。
これは日本では、実際に顧客の獲得につなげることを広告の最優先事項としているためです。 逆に、表示回数は中間的指標とされ、成果や成果に要した費用ほど重視されない傾向にあります。

日本でアドフラウドが話題になった背景

前述のような広告指標に対する慣習の差から、海外では数年前から問題視されていたアドフラウドですが、日本国内では大きな問題となっていませんでした。そんな中、2018年9月20日に国内2位のオンライン広告を取り扱うYahoo!JAPAN*が、「アドフラウド」対策の強化のため、9月21日より一部の事業者による広告配信を一時的に停止すると発表しました。

* Yahoo!JAPAN 広告関連売上:3,034億円(2017年度決算)
  アドフラウドの影響があるディスプレイ広告:1,555億円
 検索キーワード連動型広告:1,478億円

アドフラウド対策に取り組む米ピクサレート(Pixalate)は2017年5月のレポートにおいて、2017年第1四半期、日本で取引されたデスクトップ向けプログラマティック広告の全インプレッション(表示回数)のうち81%がアドフラウドだったとした。これは第2位のブラジル(38%)、第3位のアメリカ(37%)を大きく引き離す驚愕の数値として業界に衝撃を与えました。

日本では重要な指標とされていない表示回数ですが、81%がアドフラウド=無駄な広告費が生じている、という事実は見逃せません。

アドフラウドへの対策

日本国内向けにも近年、アドフラウド対策ツールが提供されはじめています。

  • MOMENTUM(米インターパブリック・グループ・オブ・カンパニーズ傘下のグループ企業)が提供する「BlackHeron」
  • 株式会社Phybbit(東京都港区/資本金3600万円)が提供する国内最大のアドフラウド対策ツール「SpiderAF」

ハッキングと同様に「対策」と「突破」の”イタチごっこ”な面もあると思いますが、ただでさえ分かりにくいWebの広告業界ですので、不正対策を適切に行い無駄な広告費を減らし、より効率的な広告出稿が広まることを願っています。