「写真撮影OK」という美術館や博物館。チラシやニュースで、最近良く目にするようになりました。

私が先日訪れた展示会も会期の途中から一部展示区域のみ「撮影OK」となっており、展示会場にはスマホやカメラを構えた一般客が順番に作品を撮影している光景が見られました。フォトスポットだけでなく、手にとって一緒に撮影できる作品すらあったほどです。

写真は展示会場の様子を撮影したもの

写真は展示会場の様子を撮影したもの

この風景は、私が学生の頃からすると少し不思議な光景にも見えます。日本の美術館・博物館では展示物の写真撮影は禁止というのが数年前まではほとんど当たり前だったからです。しかし、もともと日本以外では美術館などでの撮影を禁止していない(プロ仕様の撮影を除く)国も多いそう。近年の美術館や博物館などでの撮影可能な場所の増加は訪日外国人への配慮でもあるようです。

作品を撮ることで満足したのかよく見ずにすぐ次の作品へ行ってしまう人がいたり、周りが撮影に必死で他の方が作品に近づいて見れなかったりなど、今後はある程度のマナー喚起が必要だと感じますが、グッズや図録に無い作品をあとから見返して思い出すことも出来ますし、美術館の新しい楽しみ方だと私は思いました。

もちろん様々な美術館や博物館が撮影OKへ踏み切る理由は、配慮や新しい楽しみ方だけではありません。
この対応で注目されている部分はSNSでの拡散による高い広告効果です。

携帯電話へのカメラ機能搭載以降、私たちは旅行や観光などの非日常的な行動だけではなく、日常のあらゆるものを撮影しています。また、メールやSNSでその撮影した写真や動画を多くの人と共有することも、すでに日常に溶け込んだ行動のひとつです。
「インスタ映え」が2017年の流行語大賞に入ったのも記憶に新しいですが、観光地や食べ物以外にも展示会の様子から日用品までジャンルを問わずあらゆる物事がSNSで投稿され、日々多くの人に情報として伝わっていきます。
人がほとんど来ない博物館が写真撮影OKに変更してSNS投稿を来場者に呼びかけたところ、ツイッター投稿者のフォロワーへ拡散し、来場者数が大幅に増加したというケースもすでに稀ではありません。「フォロー」によって興味や趣味が似たユーザー同士が集まりやすいSNSの特徴を利用すると、多くの広告費をかけたメディア広告よりも精度の高い広告効果を得ることができます。数年前にヨドバシカメラが店内撮影OKとなったのも、こういったSNSなどの投稿が「情報流出などのデメリットよりもプラスが大きく、広告にも勝る効果がある」と考えられた結果でした。
展示会などでは「画面で見た人が満足してしまって、本当の来場に結びつかないのでは?」という不安もあるかもしれませんが、デジタルで多くの情報を得られる今だからこそ、実際に自分の目で見たいという人も多いはず。もしかしたら私の行った美術館の展示も、来場者数増加を目的に、会期途中からの写真撮影OKへ踏み切ったのかもしれません。

「企業や販売者が直接アピールする」明らかな広告よりも「身近な誰かや有名な誰かが良かったと言っている」口コミ情報のほうが広告効果が高いというのは、私たち広告を制作している側にとって耳が痛い事実ではありますが…、よくある紙面上でのクライアントのSNSアカウントを紹介するだけではない「SNSの活用法」として、弊社のクライアントの場合は何が出来るのか再度考えてみたいと思います。