私はディベートの授業を受けたくて出身高校を選んだとも言えるのですが、10年以上も前にそこで学んだことが普段の業務に直接ではないけれど役立っている気がしたので、皆さんに馴染みはないかもしれませんが「ディベート」について少しお話ししようと思います。

ディベート(debate)とは、広義的には「討論」のことです。
とはいえ、私が学んでいたのは主に説得力を競い合う競技の形態で行われる教育目的の「競技ディベート」です。細かなルールは省略しますが、対立する意見の2チームが立論・質疑応答・反駁をタイムテーブルに沿って行い、聴衆のジャッジで勝敗が決まります。
競技ディベートでは、公的な主題(例えば安楽死を認めるべきか否かなど)と意見対立(肯定派・否定派)は予め主催者によって設定されているため、個人の主張にかかわらずチーム配分され、討論していきます。

ディベートは口論や言い負かしあうものではないので、まず自分に与えられた意見(肯定派か否定派か)で、可能な限り聴衆を納得させる根拠を集めて主張を組み立てることが必要です。これには、論理的な展開が求められるだけでなく、個人の主張に関係なく与えられた立場に立って考える想像力が必要です。
私の時は、事前に与えられた主題に対して肯定・否定両方の主張を考えられる限り全て書き出しました。そうすることで、相手の主張の根拠や弱点、反対に相手が反駁してくる自分の主張の弱点が分かり、様々な方向から主題を考えることで、より多くの主張や反駁材料を集めることができるからです。

次に、材料を元に、本番の限られた時間内で、正しく・論理的に主張を展開することで聴衆を味方につける必要があります。ただし、集めた材料を使った正しい主張でも弱々しく分かりにくい答弁では、聴衆の指示を得られないですし、反対に少し論理展開に弱い主張でも堂々と答弁すると聴衆の支持が得られる場合もあります。勿論、それがディベートの勝ち方だといえば賛否あるとは思いますが、「主張の仕方」やちょっとした言葉遣いで相手に与える印象が変化するのは、普段の業務や広告であっても同じです。

自身の主張とは関係のない、もしくは反対の主張であっても、論理展開や説得力を求められることはデザインの業務でもよくあります。自分自身が魅力的に思わない商品であっても、依頼があるかぎりはその商品を魅力的に見せなければなりません。
デザインは、個人の意見や主張を多く含むアートとは異なり、クライアントの要望や傾向など自分以外の他者の意見を取り入れて制作することが求められます。この時、自身の主張や好みとは異なる展開がされる場合でも、法的な違反や論理的な根拠や説得できる材料が無い限りそれを大きく覆すことは滅多にありませんよね。

そういった自分の好みや考えと異なるデザインの依頼があった時に、私にはディベートで培った想像力や主張に対する説得力のもたせ方が役立っているのではないかと感じました。
みなさんも興味があれば一度調べてみてはいかがでしょうか。